神戸地方裁判所 平成6年(ワ)270号 判決 1999年2月18日
原告
山本テル子
同
山本達雄
同
岡田ひとみ
右三名訴訟代理人弁護士
沼田安弘
同
宮之原陽一
同
杉山博亮
被告
宗實孝昭
右訴訟代理人弁護士
米田邦
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一 請求
被告は、原告山本テル子に対し金一億五六六〇万〇一六二円、原告山本達雄に対し金三〇〇万円、原告岡田ひとみに対し金三〇〇万円及び右各金員に対する平成五年六月一〇日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、被告が診療手術した胃癌患者が、手術後に感染症を発症し、その後劇症肝炎となり、転院後に死亡したことにつき、患者の親族である原告らが、患者が死亡したのは、被告が、当初の感染症に対して有効適切な抗生物質を投与しなかったことが原因である等として、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償と右死亡した日からの遅延損害金の支払を求めた事案である。
一 争いのない事実等(甲一ないし四、六、一八の1、2、乙一)
1 当事者
原告山本テル子(以下「原告テル子」という。)は、亡山本邦彦(昭和三〇年三月八日生まれ。以下「亡邦彦」という。)の母であり、原告山本達雄及び同岡田ひとみは亡邦彦の弟妹である。
被告は、宗實外科(以下「被告医院」という。)を開設経営している医師である。
2 被告医院における治療経過
(一) 亡邦彦は、平成五年一月七日(以下、いずれも平成五年のことであるから、年の記載を省略する。)、被告医院を受診し、胃癌と診断され、同月二〇日から被告医院に入院した。一月一九日の検査では、GOT二〇、GPT二〇であり、肝臓の異常所見はなかった。
(二) 被告は、一月二三日、亡邦彦の胃の一部切除手術を行った。その後、亡邦彦に発熱、腹痛等の症状が続いたことから腹膜炎を疑い、二月五日夜、再開腹手術を行い、上腹部(横隔膜下)に貯留していた貯留液約六〇〇ccを吸引除去し、ドレーンを設置した。ドレーンからは、その後も液の排出が続いていた。また、被告は、一月二三日以降、シオマリン(一月二三日から二月四日まで)、トブラシン(一月二三日から二七日まで、二月五日から八日まで)、エクサシン(二月五日から九日まで)、パンスポリン(二月五日、九日)の四種の抗生物質を投与した。
(三) 被告は、同月九日から亡邦彦に意識障害が現れ始め、翌一〇日には血液検査の結果、劇症肝炎による肝性昏睡の疑いがあったので、亡邦彦を神戸大学付属病院第二外科(以下「神戸大病院」という。)へ転院させた。
3 神戸大病院転院後の治療経過
神戸大病院は、同月一〇日、亡邦彦を劇症肝炎による肝不全、肝性昏睡Ⅴ度と診断し、当日から血漿交換を行ったほか、DIC(播種性血管内凝固症候群)も認められ、同月一三日には腹腔内出血も認められるようになったことから開腹止血手術を行い、その後、敗血症の治療に準じて、合計四六回の血漿交換や抗生物質の投与等を行った。
二月中頃の亡邦彦の症状としては、肝機能、腎機能、肺の問題等のほか、黄疸、全身倦怠感、嘔気、腹痛、発熱、意識障害、肝濁音界の減少、振戦、出血傾向、腹水、肝性口臭などがあった(甲二)。
亡邦彦は、三八度を超える発熱等が続いていたところ、血漿交換の効果により一旦は、腎機能がかなり改善し、意識混濁状態を脱した時期もあった(昏睡Ⅴ度からⅡ度にまで改善した。)が、結局、肝機能障害は回復せず、総合所見としては一進一退の状態の中(甲一八の一)、同年六月に、遷延性胆汁うっ滞性肝炎から肝不全、肝性昏睡を来たし、敗血症(起因菌はグラム陽性球菌)からDICや腎不全、ARDS(成人呼吸窮迫症候群)も併発して多臓器不全となり、また、MRSA(メシチリン耐性黄色ブドウ球菌)感染も認められる状態で、六月一〇日、死亡した。
4 死亡原因
亡邦彦の直接死因は、六月に発生した肝不全、肝性昏睡及び腎不全、ARDSであるが、二月一〇日ころの劇症肝炎による肝不全が致命的であった。
二 主要な争点
1 劇症肝炎の原因(敗血症の発症時期・原因と劇症肝炎との関係)
2 被告の過失の有無
3 被告の行為(過失)と亡邦彦死亡との因果関係の有無
4 原告らの損害額
三 争点に関する原告らの主張
1 原告らの主張の概要
被告は、亡邦彦の診察において、早期に感染症を疑い、早期に検査を行い、感染症に対して有効適切な抗生物質を投与すべき義務があったにもかかわらずそれらを怠り、感染症に対して有効適切な抗生物質を投与しなかったことにより、腹膜炎の起因菌が血液中に広がり敗血症を発症させ、その結果、重症の多臓器不全となり、その一つとして劇症肝炎に至らせたものである。
2 劇症肝炎の原因(争点1)
以下のとおり、手術の際の感染ないし術後感染から腹膜炎を起こし、その腹膜炎(病巣ら横隔膜下膿瘍)の起因菌(グラム陽性レンサ球菌、おそらく腸球菌)が血液中に広がり敗血症になり、敗血症から多臓器不全を来たし、その一つとして劇症肝炎となったものである。
(一) 敗血症の発症時期及び原因
(1) 死亡時にあった敗血症については、起因菌はグラム陽性球菌であり、腹壁の慢性膿瘍(横隔膜下膿瘍)が一番大きな原因であった。そして、二月五日の再開腹手術の時点で、横隔膜下膿瘍があり、その際に採取した腹水からグラム陽性レンサ球菌・腸球菌が検出されていた。転院後もドレーンから十分な排出があり、化膿もみられていた。
また、死亡時にあった敗血症が原因となって、細菌性心内膜炎を来たし、腎臓や肺、脳等に細菌性の膿瘍を作っていたことからして、かなり早い時期に敗血症になっていた。敗血症になると重篤なDICになりやすいが、二月一〇日の転院時には、既にDICであった。
他方、敗血症でも、抗生物質を使ったり、頻繁に血漿交換をしたりした場合には、血液中から起因菌がでないことがある。
以上からすると、敗血症の原因は二月五日以前にできていた横隔膜下膿瘍であり、二月一〇日の転院以前に敗血症になっていたものである。
(2) そして、一月二三日の手術後のスパイクフィーバー(高熱の中にも時折突出した体温の上昇がみられる熱型)と呼ばれる高熱、腹痛、及び二月二日からのしゃっくりの持続などの感染を疑うべき症状、手術の際の感染や術後感染は完全には防ぎきれないことからすると、横隔膜下膿瘍の原因は、手術の際の縫合不全による胃液・胆汁の漏出など、何らかの原因による感染である。
(二) 二月一〇日の劇症肝炎の原因
劇症肝炎の原因については、ウイルス性肝炎が最も多いが、薬剤性肝炎、アルコール性肝炎などもある。本件の劇症肝炎については、ウイルス性のうち、A型、B型、C型はマイナスであり、D型、E型は非常に稀であるため、ウイルス性とは考えられない。また、手術の際に麻酔薬として使われたハローセンや、抗生物質、制癌剤が原因となったとも考えられない。
亡邦彦は、敗血症から細胆管炎となり、遷延性胆汁うっ滞性肝炎となったものだが、この死亡時の遷延性胆汁うっ滞性肝炎(病名)と二月一〇日の劇症肝炎(症状の程度)とは同じ肝機能障害をさすものである。
また、亡邦彦は、劇症肝炎だけでなく、二月一三日には膵炎も確認されていた。
以上からすると、敗血症から多臓器不全を来たし、その一つとして劇症肝炎を来したものとしか考えられない。
3 被告の過失(争点2)
被告には、亡邦彦を劇症肝炎に罹患させたことにつき、
① 亡邦彦の術後の容態から早期に感染症を疑うべきであったのにこれを疑わなかった過失(以下「過失①」という。)
② 感染症に対する適切な治療、すなわち有効適切な抗生物質の選択投与を行うために必要な各種の検査を速やかに行うべきであったのにこれを怠った過失(以下「過失②」という。)
③ 亡邦彦の感染症に対して有効適切な抗生物質を投与すべきであったのにこれを怠った過失(以下「過失③」という。)
④ 被告自ら検査を行い有効適切な対策を講じることができないのであれば、早期に転院させるべきであったのにこれを怠った過失(以下「過失④」という。)
がある。
(一) 過失①
亡邦彦は、一月二三日の手術後三日目以降も三八度以上の発熱を続け、スパイクフィーバーと呼ばれる特徴のある高熱を示していたが、その場合には、まず感染症を疑うのが外科の常識である。しかも、術後に、細菌感染による腹膜炎の症状の一つとされる激烈な腹痛やしゃっくりもあり、また、術前から抗癌剤の投与を受けており、免疫機能が低下して感染しやすい状況にあった。
したがって、被告は、右発熱等に対して、遅くとも一月二六日には感染症を疑うべきであり、特に感染による腹膜炎や横隔膜下膿瘍の可能性を疑うべきであった。
しかるに被告は、感染症を疑わず、適切な治療の機会を逸した。
(二) 過失②
一般に、感染症に対する治療として抗生物質の投与が行われるが、その際に重要なのは、起因菌に対して抗菌力を示し、感染臓器へよく移行し、かつ、副作用の少ないものを選択することである。そのため、患者の発熱等が感染によるものと疑われる場合には、まず、かかる発熱等が本当に感染によるものか否か確定し、感染によるものであれば、感染部位はどこか、起因菌は何かを明らかにする必要がある。
したがって、医師は、感染の疑いのある場合は、直ちに白血球の数及び分画、血沈、CRPの検査(感染か否か)、胸部、腹部のレントゲン撮影(感染部位の特定)、痰・尿・便の各培養検査(感染部位及び起因菌の特定)等を行わなければならない。
しかるに、被告は、一月二三日の手術後、遅くとも同月二六日には感染症を疑い、右各検査等を行うべきであったのに、ようやく二月五日に至って検査を行ったにすぎず、術後約二週間もの間、その原因検索を一切しなかった。被告が一月二六日に検査を行っていれば、微生物検査の結果報告に三日を要したとしても、二九日には結果がでていたのであり、再手術に至る前に有効な抗生物質を投与することができたし、また、エコーやCT或いは腹部レントゲン写真を撮れば腹水が溜まっていることが分かり、手術前でも腹水穿刺によって採取するなどして検査することができたのである。
(三) 過失③
亡邦彦は、二月五日に採取した喀痰からグラム陽性レンサ球菌が検出され、また、二月五日の再開腹手術の時点で横隔膜下膿瘍があり、腹水からグラム陽性レンサ球菌・腸球菌が検出され、その後も継続的に腸球菌が検出されていた。そして、死亡時にあった敗血症も、起因菌はグラム陽性球菌であり、腹壁の慢性膿瘍(横隔膜下膿瘍)が一番大きな原因であった。したがって、感染の起因菌(腹膜炎、横隔膜下膿瘍、敗血症の起因菌)は、グラム陽性レンサ球菌であり、おそらくそのうちの腸球菌である。グラム陽性レンサ球菌の薬剤感受性は、PCG(ベンジルペニシリン)、ABPC(アンピシリン)、CER(セファロリジン)、EM(エリスロマイシン)、TC(テトラサイクリン)、CM(クロムフェニコール)に認められ、これらの抗生物質の中から選択して投与すべきであった。
しかるに、被告は、亡邦彦に対して、一月二三日以降、何ら起因菌と薬剤感受性を検査せず漫然とシオマリン、トブラシン、エクサシン、パンスポリンの四種の抗生物質を投与したのみであり、当然ながら亡邦彦の発熱は治まらなかった。シオマリン(ラタモキセフ、LMOX)は、グラム陽性菌に対する抗菌力はかなり弱く、トブラシン(トブラマイシン、TOB)やエクサシン(イセパマイシン、ISP)は広い抗菌スペクトルを有するが、グラム陽性レンサ球菌はその抗菌スペクトルから外れており、パンスポリン(セフォチアム、CTM)も広く強い抗菌力を示すが、腸球菌に対しては有効性がないのである。
(四) 過失④
被告は、二月五日の再開腹手術の際に、それまで被告医院において有効適切な治療が行えていないこと、及び被告医院においては有効な治療を行えないことを認識したはずであるから、この時点で神戸大病院に転院させるべきであったのに、それを怠った。
4 被告の過失と亡邦彦死亡との因果関係(争点3)
被告が、早期(遅くとも一月二六日)に感染症を疑って発熱原因の検索に努め、有効適切な抗生物質を選択するために必要な検査を速やかに行い、右検査結果に従って遅くとも一月二九日に有効適切な抗生物質を投与していれば、劇症肝炎への罹患を確実に防ぐことができ、亡邦彦は劇症肝炎にならなければ死亡することもなかったのであるから、被告の過失と亡邦彦の劇症肝炎及び死亡との間には因果関係がある。
5 原告らの損害額(争点4)
(一) 亡邦彦の損害の相続
(1) 死亡による逸失利益
亡邦彦は、死亡当時満三八歳であり、山本ワイ建設株式会社の代表取締役として年間五四〇万円の報酬を得ていたが、右会社は、亡邦彦らの親族経営の同族会社であり、亡邦彦は、本件により死亡しなければ、今後、平均余命である三九年間に渡って右会社の役員として在職し、報酬を得ていたはずである。
亡邦彦は、死亡当時独身であったが、母である原告テル子と暮らし同人を扶養していたのであるから、亡邦彦の生活費控除率は三〇パーセント程度とするのが相当である。
算定にあたっては、年五パーセントの昇給率を加味したライプニッツ方式によるべきである。
(計算式){540万円×(1−0.3)}×37.1429(三九年の五%定率昇給を加味したライプニッツ係数)
=1億4040万0162円
(2) 死亡による慰謝料
亡邦彦は、結婚を目前に控えており、一か月程で退院できる見込みであったのに、手術後腹部の激痛が続くなど四か月余りも苦しんだ上死亡したものであり、その無念さを金銭に見積もると、一〇〇〇万円が相当である。
(3) 原告テル子は亡邦彦の母であり、唯一の相続人であり、亡邦彦の右損害賠償請求権を相続した。
(二) 親族固有の慰謝料
原告テル子は、最愛の息子亡邦彦を失ったもので、その精神的苦痛を金銭に見積もると五〇〇万円を下らない。
原告山本達雄及び同岡田ひとみは、兄亡邦彦を失ったもので、その精神的苦痛を金銭に見積もると各三〇〇万円が相当である。
(三) 葬儀費用
原告テル子は、亡邦彦の葬儀費用を負担したが、一二〇万円が相当である。
四 争点に関する被告の主張
1 被告医院における治療経過
(一) 一月二三日の胃癌の摘出手術は順調に終わり、縫合不全などはなかった。術後も便通があり、経口摂取を始めるなど問題はなかった。
二月に入って発熱、腹痛等の症状が持続するようになったことから、腹膜炎を疑い、二月五日に再開腹手術を行った。上腹部に六〇〇ccの貯留液があったが膿瘍はなく、貯留液は、黄色でさらっとした漿液性のものであり腹水というより胆汁に近いものであった。貯留液の出所・原因は不明であった。
亡邦彦は、この原因不明の貯留液から腹腔内感染したものと考えられるが、これは防ぎようがない。
(二) 二月五日の手術後、ドレーンからの排出は続いていたが、亡邦彦の疼痛は軽減し、発熱も下降傾向をたどり、九日にはベッドサイドで起床できるまでに軽快していたのであり、感染症が軽減するのと入れ替わって劇症肝炎が始まったのである。
2 劇症肝炎の原因(争点1)
以下のとおり、劇症肝炎の原因は不明である。
(一) 亡邦彦の感染症の起因菌は何ら特定されていないし、また、検査でも様々な細菌が検出され起因菌の交代等も考えられるのであるから、特定しえない。
DICの原因として、敗血症のみならず劇症肝炎も考えられるのであり、本件の転院時のDICも劇症肝炎によるものと考えるのが自然である。転院後も敗血症と認める症状はなかったし、DICも神戸大病院の治療により抑えられ、一旦は軽快傾向を示していた。
敗血症を発症したのは転院後の六月三日ころであり、それに、新たに胆汁の漏出が始まったことによるものであり、その起因菌は強い毒性を有するMRSAである。それまでは、血液中から細菌が検出されたことはなかった。死亡時にあったDICは、この新たに生じた敗血症によるものであり、転院時のDICとは別である。
劇症肝炎に陥った後も、腎機能は正常であり、多臓器不全はなかった。
以上からすると、二月一〇日の転院以前に敗血症であったとは考えられず、敗血症から多臓器不全となりその一つとして劇症肝炎になったとは考えられない。
(二) 二月五日の手術後、亡邦彦は軽快傾向にあったのであり、感染症状が軽減するのと入れ替わって劇症肝炎が始まったのである。
劇症肝炎は、ウイルス性のものが最も多いところ、本件ではB型、C型についてマイナスとされているにすぎず、A型、D型、E型については何ら確認されていない。
もともとレンサ球菌は常在菌であり、しかも腸球菌は弱毒菌であり、発熱や敗血症、劇症肝炎の原因になったとは考えられない。
神戸大病院でも、肝機能障害(劇症肝炎)の治療を最優先とし、最善の諸検査等を重ねたにもかかわらず、劇症肝炎の原因は不明としている。
3 被告の無過失(争点2)
(一) 被告は、術後は感染しやすいことから、当初から感染症を考慮して抗生物質を投与していた。白血球増多、CRP陽性等は、検査するまでもなく想定していた。
(二) 亡邦彦の発熱は、術後の吸収熱とも考えられたのであり、一般の術後経過とかけ離れたものではなかったのであるから、経過観察をすることが許されず直ちに諸検査をしなければならない状況ではなかった。
腹水検査は、再手術前には不可能である。下腹部の腹水穿刺は可能だが、上腹部の穿刺は他臓器の損傷を来す危険があり、実施できない。
(三) 被告の抗生物質治療により、多くの感染細菌に効果があったはずである。
抗生物質治療による細菌交代の可能性を無視して、その後に検出された細菌に抗菌力を有する抗生物質を使用すべきだったなどと言えるはずがない。
4 被告の行為と亡邦彦死亡との因果関係(争点3)
(一) 原告は感染症に対し適切有効な抗生物質を投与していれば劇症肝炎を防ぐことができたと言うが、そもそも劇症肝炎の原因は感染症ではない。
(二) 仮に、細菌感染による敗血症から多臓器不全を来たし、その一つとして劇症肝炎になったとしても、被告の治療行為と亡邦彦の劇症肝炎との間に因果関係はない。
(1) 痰、尿、便の培養検査で本件の感染部位や起因菌の特定ができるとは考えられない。
微生物検査の結果報告は、検体提出から早くとも三日後であり、しかも、その報告には必ずしも薬剤感受性は含まれていないし、報告される抗生物質の種類も限定されている上、抗生物質治療による細菌交代等も考慮しなければならないのであり、直ちに臨床治療効果を約束するものではない。現に、二月六日提出同月九日報告の腹水の検査では、薬剤感受性の報告はなかった。
再手術前に腹水検査をしえないことは前述のとおりである。
したがって、原告らの主張する可能な検査をしていても、原告らの主張する抗生物質を早期に投与し得たとはいえない。
(2) 亡邦彦は、転院後も、各種検査、各種抗生物質の投与にもかかわらず、治療抵抗性の発熱が続いたのであり、転院前後の細菌の変化や本件感染症の悪性度の強さからすれば、被告が他の抗生物質を投与していれば感染を確実に治癒させて、劇症肝炎を抑えることができたとはいえない。
(三) したがって、被告の治療行為と亡邦彦の劇症肝炎との間に因果関係はない。
第三 争点に対する判断
一 劇症肝炎の原因(争点1)
1(一) 証拠(甲九ないし一一、一九、二六、乙七、八、弁論の全趣旨)によれば、一般に劇症肝炎は、急性肝炎発症後、高度の肝機能障害により八週間以内に肝性昏睡や肝性脳症(意識障害)を来たし、脳浮腫、消化管出血、腎不全、多臓器不全、血管内凝固症候群、DIC、全身感染症等を伴いやすく、致命率が高い(生存率は二〇ないし三〇%程度)。臨床症状としては、全身倦怠感、発熱、悪心、食慾不振、腹痛、意識障害、肝濁音界の減少、肝性口臭、腹水などがある。肝機能(解毒作用等)が働かなくなると抗生物質等の効果も弱くなる。血漿交換は一般的な治療法であるが、毒性物質除去等を目的とするもので根本的な治療法でなく、劇症肝炎には根本的な治療法はなく、全身管理を行うほかない。劇症肝炎のうち、九〇%以上がウイルス性であり、その他に薬剤性や中毒性のものもある。ウイルス性では、A型、B型でその約半数を占めるが、非A非B型(特にC型)も増加している。
なお、一般的な劇症肝炎の原因分類において、右以外に細菌性の劇症肝炎(細菌感染が劇症肝炎の直接的な原因となること)があるとの証拠はない。
(二) 次に、証拠(甲六、一八の1、2、乙一、証人伊東、同阪本、弁論の全趣旨)によれば、亡邦彦の劇症肝炎は、検査により、A型、B型、C型ウイルスによるものではないことが確認されたこと、D型、E型は稀であるが検査等で否定されたわけではないこと、手術の際に麻酔薬として使われたハローセンが原因ではないとの検査結果はあるが、その検査がかなり輸血された後にされたものであることを考慮すると、完全に否定できるわけではないこと、その他には、薬剤性肝炎の原因となるような抗生物質や制癌剤は使われていなかったこと、神戸大病院では、原因探索のため種々の検査・検討等を行ったが、結局原因を解明できなかったことが認められる。
(三) 以上の事実からすると、本件劇症肝炎の原因は不明であるといわざるを得ない。
2 原告らの主張について
原告らは、感染による腹膜炎の起因菌(グラム陽性レンサ球菌、おそらく腸球菌)が血液中に広がって敗血症になり、敗血症からDIC、多臓器不全を来たし、多臓器不全の一つとして劇症肝炎が生じたものである旨主張するので、以下検討する。
(一) 感染による腹膜炎
前記争いのない事実等に加え、証拠(甲七、八、一八の1、2、二二、乙三、五、六、一〇、証人伊東、同阪本、弁論の全趣旨)によれば、術後に発生する腹膜炎には、主として縫合不全によるものと原因不明のものとがあること、本件の場合、一月二三日の手術の際に縫合不全はなかったこと、縫合不全以外の術後感染や貯留液からの感染は避けがたいこと、二月五日の再手術の際に腹腔内に貯留液があったが、その原因は不明であったこと、その後ドレーンからの排液には膿もみられたこと、転院後の二月一三日の手術の際、小網(肝臓と胃の間の膜)部付近に膿苔があったことが認められ、これらの事実によれば、二月五日以前に、原因不明の貯留液から腹腔内感染し、腹膜炎を来したものであると推認できる。
(二) 感染症の起因菌
原告らは、起因菌はグラム陽性レンサ球菌であり、おそらく腸球菌である旨主張する。
(1) 確かに、証拠(甲七、八、二一、二二、二八、二九、乙一〇、弁論の全趣旨)によれば、一般に、腸球菌などの常在菌も日和見感染等の原因となること、耐性菌である腸球菌による菌血症は難治性となることもあること、喀痰には常在菌が多く真の起因菌の特定が困難な場合も多いこと、膿から細菌が検出された場合はそれが起因菌である場合が多いこと、継続して検出される細菌は起因菌である場合が多いことが認められる。
そして、本件においては、証拠(甲一八の1、2、乙一、弁論の全趣旨)によれば、細菌検査で、二月五日(結果報告は八日)の喀痰から、グラム陽性球菌、グラム陽性レンサ球菌(α―緑色レンサ球菌)、グラム陽性桿菌、グラム陰性桿菌が、六日(結果報告は九日)の腹水からグラム陽性レンサ球菌(腸球菌)が、一五日結果報告の膿からグラム陽性球菌(腸球菌)が検出され、その後も腸球菌は膿などから三月中及び四月九日、五月一一日と比較的継続的に検出されていたこと、死亡時にあった敗血症の起因菌はグラム陽性球菌であったことが認められる。
そうすると、腸球菌が感染症の起因菌であった可能性があることは認めることができる。
(2) しかし他方、証拠(甲七・八・二一、二二、二八、乙一〇、弁論の全趣旨)によれば、腸球菌はもともと病原性が低いこと、多くの抗生物質に耐性であること、腸球菌を原因とする感染症は、他の細菌と併存して生じる場合や他の細菌との菌交代により生じる場合も多いこと、抗生物質を使用した場合は細菌が検出されにくいことが認められる。
そして、前記争いのない事実等及び証拠(甲一八の1、2、乙一、弁論の全趣旨)によれば、被告は一月二三日以降四種の抗生物質を投与したことが、また神戸大病院も種々の抗生物質を投与したことが認められ、これにより多くの細菌が検出されにくかったものと推認されること、三月末から四月にはグラム陰性桿菌(セラチア)が検出されていたこと、六月三日に血液から黄色ブドウ球菌が検出されるまでは血液から細菌が検出されたことがなかったことが認められる。
さらに、前記腸球菌の検出について抗生物質投与との関連をみると、証拠(甲七、八、一〇、一一、一七の1、2、一八の1、2、二二、乙一、九、弁論の全趣旨)によれば、腸球菌はもともと常在菌であることのほか、被告が投与した抗生物質はいずれも腸球菌に対しては有効性を有しないことが認められ、また、神戸大病院は、感染症の治療として抗生物質を投与していたところ、投与した抗生物質(抗菌剤)は、例えば、当初から二月二三日まではエクサシン(イセパマイシン、ISP)及びセフォペラジン(セフォペラゾン、CPZ)、二月二四日から二八日ころはエクサシン及びペントシリン(ピペラシリン、PIPC)、三月上旬はエクサシン及びフルマリン(フロモキセフ、FMOX)、三月中旬からはエクサシン及びビクシリン(アンピシリン、ABPC)などであり、その後はチエナム(イミペネム/シラスタチン、IPM/CS)やシオマリン(ラタモキセフ、LMOX)なども投与していること、エクサシン、セフォペラゾン、フルマリン、シオマリンは腸球菌には効果がないこと、ピペラシリン、アンピシリン、チエナムは腸球菌にも効果があること、アンピシリン(腸球菌感染症の治療の第一選択薬ともされている。)及びチエナムは本件で検出されていた腸球菌に対する薬剤感受性検査結果報告でも当初から摘示されていたことが認められ、また、神戸大病院の阪本医師らが腸球菌が起因菌であると特定して治療に当たっていた様子は見受けられないこと(証人阪本)などからすると、腸球菌が当初から比較的継続的に検出されていたにもかかわらず、必ずしも腸球菌に対する抗菌剤を継続していたわけではないのであり、神戸大病院は、その治療過程においては、腸球菌が感染症の起因菌であるとは特定しておらず他の起因菌の可能性を考えていたものと推認される。
(3) そうすると、感染の起因菌はグラム陽性レンサ球菌・腸球菌であった可能性があるとはいえるが、他の起因菌と併存していた可能性や他の起因菌との菌交代により検出されたり単に常在菌として検出されたにすぎない可能性を否定することもできず、亡邦彦の感染症の起因菌が腸球菌であったと断定することはできない。
(三) 転院前の敗血症
(1) 証拠(甲七ないし一一、二〇、二五、二九、弁論の全趣旨)によれば、一般に敗血症は、粘膜の損傷や種々の臓器の感染巣から細菌が血液中に入った状態である菌血症から進行し、細菌が全身に播種されて、新たに転移性の感染巣をつくる重篤な細菌感染症である。臨床症状としては、急激な発熱・解熱・悪寒戦慄・悪心嘔吐・関節痛、低血圧、頻脈・過呼吸、乏尿、アシドーシス、意識障害、血小板減少、白血球数増加、壊死性膿疱疹などがみられ、敗血症性ショック、DIC、ARDSを伴発すると予後は重篤である。敗血症の原発感染病巣には、尿路感染、肝・胆道感染、腹腔内膿瘍、肺化膿症などがあり、抗癌剤の投与中や術後などは発症しやすい。血液培養による細菌検出によって確定診断される。
(2) 亡邦彦の死体を解剖検査した伊東宏医師は、証人尋問において、解剖時の状態、すなわち細菌性心内膜炎の状態、肺や腎臓等の膿瘍の存在感からは六月三日よりもかなり早い時期から敗血症になっていたと考えられる旨、死亡時の敗血症の起因菌はグラム陽性球菌であり、最も重い障害が腹壁の慢性膿瘍であったこと、転院前の横隔膜下膿瘍の起因菌がグラム陽性球菌レンサ球菌・腸球菌とも考えられ、グラム陽性球菌という点で同じものであることから、敗血症の起因菌は当初から右グラム陽性球菌のうちのレンサ球菌・腸球菌であったと考えている旨、発熱等敗血症を否定できない状態がずっと続いていた旨等を述べているが、他方、敗血症にいつなったかは分からないとも述べている。
亡邦彦の治療にあたった阪本俊彦医師は、証人尋問において、二月一〇日の転院時に敗血症でもおかしくない状態であり、疑って血液検査をした(二月一五日)が、菌が検出されなかったため敗血症とは診断しなかった旨、転院時に既に敗血症であったが、最終的にそれが悪化して死亡した可能性もある旨等を述べているが、他方、治療により感染症から敗血症に進行するのを抑えていたが、四月中頃の胆汁の漏れを引き金として敗血症になったとも述べ、また、その供述からは、腸球菌が起因菌と考えていた様子は見受けられない。
(3) 前述のとおり、敗血症になるとDICになりやすいところ、転院時にはDICを来していたこと、神戸大病院では転院当初から敗血症を疑い敗血症に準じた治療(血漿交換、抗生物質投与等)を行っていたことなどが認められる。
他方、前述のとおり、神戸大病院の治療経過においては、腸球菌が敗血症の起因菌であると特定していた様子は見受けられないことのほか、証拠(甲六、一八の1、2、弁論の全趣旨)によれば、亡邦彦には、四月中旬に新たな胆汁の漏出が生じたこと、総合所見は一進一退であり発熱も三八度前後であったが、六月三日に四〇度を越す発熱があり、この頃から急激に容態が悪化し、六月七日ころからMRSA肺炎を併発しDICをも再発したこと、それまで血液から細菌が検出されたことがなかったところ、六月三日に至って初めて血液から黄色ブドウ球菌(これもグラム陽性球菌である。)が検出され敗血症と診断されたこと、黄色ブドウ球菌は毒性が強くこの菌による敗血症は予後が極めて不良であること(甲二二、乙四)、五月一一日以後六月三日まで細菌検査は行われておらず、五月中には黄色ブドウ球菌に感染していた可能性もあること、感染性心内膜炎は、通常は、何らかの原因による心内膜の損傷を前提に、細菌の不着、増殖という経過をとるが、黄色ブドウ球菌による場合は、正常な心内膜にも感染し、急速に破壊すること(甲七、八、一〇)、死亡時の敗血症の起因菌はグラム陽性球菌という以上に詳しくは解明し得ないこと、劇症肝炎からDICを併発する場合も多いこと等が認められる。
(4) 以上の事実を総合すると、転院前に既にグラム陽性レンサ球菌(腸球菌)感染から敗血症を来たしていたという可能性はあるが、他方、それまでは敗血症には至っておらず、五月ころに新たに黄色ブドウ球菌に感染し、この菌により敗血症を来たし、死亡時の状態となった可能性等を否定することはできず、転院前に敗血症になっていたと断ずることはできない。
(四) 転院前の多臓器不全
(1) 前記一1認定事実及び証拠(証人伊東、同阪本、弁論の全趣旨)によれば、一般に敗血症が劇症肝炎の原因になる(敗血症が原因となって劇症肝炎のみ生じる)ことはなく、ただ、敗血症から多臓器不全を来たし、その一環として肝不全・劇症肝炎になる場合が稀にはあることが認められる。
(2) 前記争いのない事実等及び前記各認定事実に加え、証拠(甲六、一八の1、2、二一、証人阪本、弁論の全趣旨)によれば、二月一〇日の検査では、劇症肝炎・肝不全(GOT、GPT、総ビリルビン、アンモニア等の異常)が認められたこと、DICであったこと、腎機能(尿素窒素、クレアチニン)は正常範囲であったこと、二月一三日に軽度から中等度の膵炎が認められたこと、腸管の色調は良好だったこと、神戸大病院は転院時においては多臓器不全との診断はしていなかったこと、その後腎機能不全が生じたが改善されたこと、肝機能障害は腎機能にも影響することが認められる。
(3) そうすると、敗血症から肝機能障害、膵炎、腎機能障害といった多臓器不全を来した可能性があるとはいえるが、他方、転院前の臓器障害としては肝不全が突出して重篤なのであり、先行する劇症肝炎・肝不全から腎機能等に影響した可能性もあることに照らすと、転院前にあったのは劇症肝炎のみで未だ多臓器不全には陥っていなかった可能性があることを否定できない。
(五) まとめ
以上からすると、原告らの主張するような、腹腔内感染(グラム陽性レンサ球菌・腸球菌)から敗血症になり、敗血症からDIC、多臓器不全を来たし、その一つとして劇症肝炎が生じたという可能性があることは認めることができるが、前述の種々の疑問、他の可能性を否定し得ないことに加え、劇症肝炎のうち九〇%以上がウイルス性であり、その余の原因の主たるものが薬剤性や中毒性なのであり、原告らの主張する敗血症から劇症肝炎を来すということがあるにしても稀にしかないことに照らすと、D型、E型ウイルス性等の劇症肝炎の可能性を稀であるという一事をもって否定することはできないことなども考慮すると、原告ら主張のような機序で劇症肝炎が発症したとする蓋然性が高いとまではいえないのであり、結局、本件劇症肝炎の原因は不明といわざるを得ない。
二 被告の行為と亡邦彦死亡との因果関係(争点3)
1 前記争いのない事実等、前記一1認定事実及び弁論の全趣旨によれば、劇症肝炎による致命率は非常に高く、亡邦彦も神戸大病院の懸命の治療にもかかわらず救命し得なかったものであり、結局、本件では劇症肝炎になったことが致命的であり、亡邦彦を救命するには劇症肝炎を防ぐしかなかったものと認められる。
しかし、前述のとおり、本件各証拠によっては本件劇症肝炎の原因は不明というほかないのであり、従って、被告がどのような処置をとっていれば劇症肝炎を防げたのかもまた不明なのであるから、被告の行為と亡邦彦の劇症肝炎ないし死亡の結果との間に因果関係を認めることはできないといわざるを得ない。
2 原告らの主張について
(一) 原告らは、被告が、早期に感染を疑って検査を行い、感染部位及び病原菌を特定して、有効適切な抗生物質を投与していれば、本件劇症肝炎を確実に防ぐことができた旨主張する。
確かに、被告が、早期にレントゲン撮影等で腹水を確認し、腹水を採取して検査し、腸球菌が起因菌である可能性を知れば、高熱等が続き投与している抗生物質のみでは効果が少ないという状況において、原告らの主張するような腸球菌に対しても有効な抗生物質を併用して投与すること等を選択できた可能性はある。
しかし、前述のとおり、そもそも腸球菌が起因菌であったことは断定できないことはもとより、本件劇症肝炎の原因が細菌感染(による敗血症)にあるか否かも不明なのであり、被告が原告らの主張する抗生物質を投与していたとしても、本件劇症肝炎を防ぐことができた蓋然性が高かったとはいえない。
(二) また、原告は、二月五日の再手術の時点で転院させていれば、本件劇症肝炎を確実に防ぐことができたとも主張する。
しかし、仮にウイルス性であった場合、本件劇症肝炎による肝性脳症の発現が二月九日ころであると推認されるのみで、いつの時点でウイルスに感染していたのか不明であること、また仮に、細菌感染(による敗血症)が原因であった場合、神戸大病院においても起因菌の特定ができていなかったこと、そして、そもそも劇症肝炎の原因は不明であったことからすると、原告らが主張する時期に転院させていれば、本件劇症肝炎を防ぐことができた蓋然性が高かったとまではいえない。
三 被告の過失(争点2)
証拠(乙一、被告本人、弁論の全趣旨)によれば、被告は、感染症に対して広い抗菌スペクトルを有する抗生物質で対処しようとしていたもので、感染部位や起因菌を特定することはさしたる関心を払っていなかったことが認められる。しかし、被告の行為には、それに過失があったか否かにかかわらず、亡邦彦の劇症肝炎ないし死亡の結果との因果関係が認められないのであるから、本件においては、被告の過失の有無については特に判断する必要がない。
四 結論
以上のとおり、被告の行為と亡邦彦の劇症肝炎ないし死亡の結果との間に因果関係を認めることができないのであり、原告らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官森本翅充 裁判官田中俊行 裁判官太田晃詳は、転補のため署名捺印できない。裁判長裁判官森本翅充)